パンデミックで世界が揺れる中、中国の内需は底堅い成長を見せ、2021年4月ー6月GDP成長率は+7.9%を記録した。今回から複数回にわたり、中国市場の注目分野を取り上げる。一回目はオーラルケア市場。生活習慣が徐々に変わりつつある中国で、世代や地域で細分化される市場の今を分析する。

センシングアジア ディレクター 藤野晴由

店頭に並ぶ歯磨き粉の一例

店頭に並ぶ歯磨き粉の一例

コロナ禍で多くの国が大きな打撃を受けている中で、中国はそのコロナの発信源であるにもかかわらず、強大な国家権力の下でいち早くコロナ収束に成功している。来年の北京冬季オリンピックを控える中で海外との人的交流は今後も当分制限されるとの観測が有望だが、国内での旅行は既に活発化しており、内需を中心に中国経済は他国に比べて成長を続けている。特に中国人の消費意欲は旺盛であり、経済成長と共に彼らのライフスタイルも変化を見せ始めている。富裕層はブランド商品の爆買いをしているようであるが、一般的な中国人の購買行動に大きな変化は生まれてきているのであろうか?
そこで今回は中国のオーラルケア市場を外観することで中国人のライフスタイル、価値観がどう変化してきているかを考えてみたい。

拡大を続ける中国のオーラルケアマーケット

Statistaのデータによると中国のオーラルケア市場は2020年から毎年10%近く成長を続けており、25年には約1兆2千億円規模になると言われている。
その半分以上を占めるのが歯磨き粉、歯ブラシ市場である。25年には約6700億円になると言われている。
日本の2019年のオーラルケア市場は2128億円であり、人口が10倍の中国を考えると、理論的には日本の10倍、2兆円になる可能性は十分にある。
しかし、まだオーラルケアそのものへの理解や習慣が出来ていないことが考えられる。つまり、これから生活水準が上がることで、今の予測以上にマーケットが拡大する可能性がある。

歯磨きは女性でも一日2回以下?

では、中国人はどのようなオーラルケアを行なっているのであろうか?
弊社が今年6月に現地で聞き取り調査をしたところ、興味深い結果が浮かんできた。
それはオーラルケアにおいては、世代、年齢によって行動や関心が大きく異なっているということだ。そこでさらに、1級都市である北京、上海、1.5級都市の西安、そして2級以下の都市で女性を対象にアンケート調査を実施した。
そこで見えてきたことは、まず都市クラスによって1日何回歯を磨くのかが違うことである。
1級都市では、1日2回が基本であり、Y世代のオフィス勤務では3回磨いている人も見受けられた。1.5級都市の西安では1日2回だが、シニア層は1日1回というのも多くみられた。2級以下の都市では1日1回が当たり前であり、1日3回歯を磨くということが信じられないという印象を受けた。
また基本的に歯を磨くのは朝、起きてからすぐに磨く。これは日本でも同様で、夜、寝ている間に細菌が口の中で多く発生しており、これを綺麗にするためである。
一方、筆者が食事後の歯磨き習慣について聞いたところ、食事の後に歯に汚れがあれば、爪楊枝で取れば良い。そのために爪楊枝があるのだと言われてしまった。
中国人らしい論理と言える。
日本で最近当たり前のランチの後にオフィスの洗面所で歯を磨くというのは、ほとんど普及していなかった。ある女性は日本での勤務経験があり、日本在住時は昼に歯磨きをしていたが、中国に戻ると誰もしていないし、1人で歯を磨いていると変に思われたので辞めたと話している。この辺りからも生活習慣そのものが変わる可能性はあるのだろう。

世代で違うMy歯磨き粉

圧倒的な品ぞろえの歯磨き粉売り場、上海久光
圧倒的な品ぞろえの歯磨き粉売り場、上海久光

さて、中国では膨大な種類の歯磨き粉が売られている。
中国製を基本に外国製として韓国、日本、欧米と色々な種類の歯磨き粉があり、値段も国産品の150円から1万7千円もする高級品まで揃っている。ただ、これも1級、1.5級都市までであり、2級都市になるとグッと品揃えは少なくなってしまう。
もちろんネット上では多くの歯磨き粉が売られているので、地方に住んでいても購入することは可能だ。しかし、ここで中国人的な発想、“口の中にいれるものは安全、安心でなければいけない。そのために現物をまず確認することが大切だ。またネット上だけの情報は特に地方では安心できない” が出てくる。確かにクチコミを中国人は非常に大切にするし、加えて地方では実際の商品がないとやはり買うのをためらうようだ。そういう意味では、オーラルケアではリアル店舗の重要性が再確認できる。

では次に、どんな歯磨き粉のブランドを好んでいるのだろうか?
上海、北京等大都市では、個人のこだわりがあり、家族それぞれが、MY歯磨き粉を使っている。ちなみにこの傾向は1.5級都市や2級都市ではみられず、そこまでのこだわりを歯磨き粉には求めていないようだ。
歯磨き粉の好みやこだわりは、世代ごとに大きく異なる。目的に合わせて歯磨き粉を個人で選ぶ傾向がある中国人は、世代ごと、ライフスタイルごとに求めるものが変わってくる。
若い世代では美白、口臭など、そして高齢者では歯槽膿漏予防などは日本でも同様。
ただ、面白いのは若い世代、特にZ世代(25歳まで)とY世代(26−39歳)の歯磨き粉へのこだわりが大きく違っていることである。そもそも我々の感覚では中国人は海外製品、特に日本製品は品質が高く、できれば日本製品を使いたいというのが一般的である。
特に歯磨き粉はインバウンド消費ではお土産の筆頭になるほど人気の商品である。
よってY世代に聞くと、今は日本に誰も行けないのでお土産で買ってきてもらうこともできないし、ネット上で日本品の安売り時にまとめて買うことが多いとのことだ。また、一部の日本企業は既に現地生産の歯磨き粉の販売も始めている。価格は日本からの輸入品が現地品の約2−3倍。現地生産品は1、5倍程度だ。しかしY世代にとっては歯磨き粉は多少お金をかけても歯を白くしたい、口臭をおさえたいという願望が強いようだ。ちなみに美白では圧倒的に韓国製ブランドを好んでいる。
しかし、Z世代にとってはこの日本製品=高品質品という公式は必ずしも当てはまらないようだ。

Z世代のこだわり

Z世代は全世代で注目されている世代である。
日本でもSHIBUYA109エンタテイメントが設立したZ世代に特化するマーケティングチーム「SHIBUYA109 lab.」所長の長田麻衣氏によると、Z世代の特徴は

  1. 自分らしさは周囲が決める: 周囲からどう見られているかを意識している
  2. 同調思考が強い: 周りの目が気になり、共感能力も高い
  3. 多面性がある: さまざまな自分を持ち、SNSアカウントを含めたコミュニティに合わせて表現する
  4. 多様性は当たり前: 自分にも他人にもいろいろな側面が合って当然だと考える

のようだ。

中国のZ世代にも似た特徴はあり、海外ブランドに、単純にあこがれを抱いてはいない。デジタル情報を駆使しながら、仲間とのやりとりの中で、自ら欲しいものを見つけていく。
国産ブランドにも愛着があり、特に中国という国に対する誇りがある。これはデジタル分野では、すでに中国が世界をリードしている側面もあることが、彼らに自負を与えているのかも知れない。
従って、これまでのような欧米をはじめとする西洋文化、日本文化をそのまま受け入れることはなく、歯磨き粉についても日本製が安全安心、という意識は希薄なようだ。

今後の中国のオーラルケアマーケットのここに注目!

ようやく1日2回の歯磨きが定着する中国ではオーラルマーケットは毎年10%近くの成長が見込まれる有望なマーケットであり、日本のような1日3回まで伸びる可能性も十分にある有望なマーケットだ。歯ブラシ、歯磨き粉だけでなく、マウスウォッシュのような関連商材も期待できる。
リアルの売り場に置かれる安心感と、Eコマースでのプロモーションの両面からのアプローチが重要であるが、競合は、国産だけでなく米国、欧州、日本、韓国など、多くの競合が存在しており、価格、効能、ブランド力など差別化すべき要因は多くある。
今後、ますます歯磨きの機会が増えてくるのは若者世代であり、今のY世代はこれまでのマーケティング戦略で通用するかもしれない。
しかし、今後マーケットの25%近くを占めるようになるZ世代にはこれまでの海外ブランドの持つブランド力は通用しない。
日本企業にとっては現在通用しているY世代とは全く違うマーケティング戦略をいかにZ世代に向けて早く打ち出すことができるかが、厳しい競合競争から一歩抜け出す道になると思われる。

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