「地方から世界へ」その構想が、地方を元気にする。地方から世界、このステップを一歩ずつ進めているフレッシュな力がある。福岡を拠点に専門学校を展開する麻生塾。麻生氏のインタビューの中から「地方から世界へ」という構想が、逆に地方を元気にする力になる、ということが分かってきた。ビジネスの拡大を国外に求めることと、国内の空洞化は、セットで語られることも多い。しかし、麻生塾の挑戦には、地域の新たなヴァイブレーションを感じるのである。

麻生 健 氏(あそう たけし)
学校法人麻生塾
麻生専門学校グループ CEO

プロフィール
昭和56年11月8日生まれ。32歳
平成16年4月 ブリヂストンスポーツ㈱ 広報室 イベントグループ
平成22年6月 ㈱麻生地所 取締役就任
平成22年6月 麻生介護サービス㈱ 取締役就任

海外へ日本の良さを伝える

麻生グループと麻生塾とは

麻生グループの教育部門として、福岡県下に専門分野に特化した 12の専門学校を展開する学校法人です。
麻生グループは 1872年(明治5年)に麻生太吉が創業した石炭産業から始まり、明治・大正・昭和初期と筑豊有数の炭鉱主として、石炭の他にも銀行、電力、鉄道、病院、セメント事業など幅広く事業展開してきました。戦後になると、石炭からセメント事業に転換し、現在はセメント、生コンクリート製造販売のほか、いま我々がメインに取り組んでいることが医療や教育事業で、日本でも屈指の規模である飯塚病院を核に健康医療福祉事業、そして総合専門学校麻生塾を中心とした教育事業の運営です。
「麻生塾」は 1939年に、麻生太賀吉が、志の高い若者への教育の場として設立した教育機関です。校訓を「無私」として、いまでもその精神を受け継いでいます。長く続けて行くためには、地方ならではとも言える、信頼関係が非常に重要だと考えています。地場の人間として、九州の顧客ニーズに応えることを中心にやってきたという思いがあります。地域に貢献していくことで、信頼をいただいているのかなと感じています。

この9月に、インドネシアの大学と共同で新学部を設置したと発表されました。

はい、インドネシアのジャカルタに本部を置くインドネシア国内トップクラスの総合大学であるBINUS大学と共同で「Binus ASO School of Engineering」を設立しました。麻生工科自動車大学校の自動車工学・機械設計科と麻生建築&デザイン専門学校のプロダクトデザイン科の教育ノウハウを生かした2学科を設置し、グローバル社会で活躍できる人材の育成を目的としています。
もともと九州は自動車産業が盛んで工場も多い地域だったので、麻生塾としても工科自動車大学校を設置していました。一方、インドネシアでも自動車産業が伸びており、インドネシア人を教育するようなカリキュラムとしてトヨタさんも道場を作られたりしています。我々もタイやベトナム、インドネシアなど色々見に行かせていただいたなかで、これなら出来ると思ったことがあります。それは、専門学校ならではの就職率向上ノウハウだけではなく、我々が目指しているGCB(グローバル・シティズン・ベーシック)教育です。幅広い視野のもと志を持って行動できる人材すなわち人間力、総合力といわれるような自ら考える能力を伸ばすことです。
インドネシアや東南アジアというのは、大卒の人が社会のなかで自分の役割はこれだと決めてしまい、ブルーカラーの仕事は高卒やポリテク卒がやるものだとして自分で汗をかかないという傾向があります。でもそこがなぜ重要なのかということを大学時代に伝え、さらに日本企業へのインターンシップによって理解してもらうことで、現地の日系企業のニーズに応えられるのではないかなと思っています。

プロダクトデザインの学科も設立されていますね。

インドネシアは親日国なので、マンガやLINEもそうですし、デザインなどにも非常に興味を持っています。彼らの目的は就職ですし、就職も日系企業に入ってみたいという思いもありますから、その期待に応えたいと思っています。

新しい学部で行う授業は英語ベースですか。インドネシアの学生はどれくらい英語に対応できるのですか。

授業はすべて英語になります。正直な話、日本よりはるかにレベルが高いですね。なぜかというと、インドネシアもベトナムもインターナショナルスクールが非常に多いのです。逆にベトナムではベトナム語よりも英語力が高くなっているという問題もあるのですが、英語の授業は日本よりはるかに苦にならない学生は多いですね。

逆に日本だったら実現しなかったですよね。

今はまだ無理だと思いますね。実は本当に私がしたいのは、あと3年後5年後に例えば海外の留学生が日本の専門学校である麻生塾に来て、2年か3年のカリキュラムで、英語で行う授業をしていきたいなと。その時は日本の学生も一緒に授業を受けてもらおうと考えています。留学生にはそのまま日系企業に就職したり、もしくは現地で日本の資格を活かして活躍してもらいたいですね。

地域だからこそ成し得た海外展開の一歩とは

我々が外へ出られたという強みは、オーナー企業だからだという要因もあります。地方にはオーナー企業は多いと思いますが、やはりスピードが大事ですし、今回の提携先である現地の会社もオーナー企業ですからオーナー同士でスムーズに進むというのが非常に強いですね。

インドネシアやタイはオーナー財閥系企業がGDPの結構なパーセンテージを占めています。スピード感とは相手に対する反応の速さですよね。よく日本は、交渉する人間が決定権を持たず持ち帰って検討しますということでスピードが遅いといわれます。お伺いした、スピードの速さというのは麻生塾の文化でもあるのでしょうか。

もともと石炭屋ですから、石炭の需要がなくなって瀕死の状況になるなかでセメントにシフトしました。その後セメントはバブル時代より生産量は市場の中で半分並みになり、どうやって生き残るかという模索をしました。そこで事業のウエイトを、病院だったり、教育だったり介護だったりと多様化しながらスイッチングしているのです。福岡、九州に根差し続けてきた分、常に地域における新市場とは何か、あるいは新顧客、新ツールは何かということを意識して事業を進めています。それがやはりスピードというDNAを形成しているのかなと感じます。成長しないと死んでしまうというのはよく分かっていますので、そこが企業文化というか、経営者の文化なのかもしれませんね。
そうして日本の状況を見ると、日本の大都市以上にこんなに成長しているところが東南アジアにあるわけです。あれを目の当たりにして、東京が魅力的かと言われたらもっと魅力的なところはいっぱいある。やはりそちらに目を向けないといけませんし、10年後20年後を視野に見つめていかないといけません。我々の教育にしてみても、今後学生が増えることはないですからね。

英語の必要性はどの企業もそうだと思いますが概してなかなか追いつかない。なんとなく九州の企業の方が意識的に海外に目が向いていて英語が必要とするニーズが高いのかなと感じました。

そうかもしれないですね。観光客もアジア人が圧倒的に多いですし、数は確かに東京の方が多いとは思いますが、人口の割合に対しての観光客数比率が高いですね。東京や大阪ではなくて、アジアに興味がある日系企業さんは九州では全体的に多いです。なので、実際海外に視点を向けたビジネスに舵を切ろうと言う動きにつながっているのかなと思います。

攻めの姿勢であるとか、外に行こうというお考えというのは、やはり九州ならではの気質のようなものがあるのでしょうか。

それはあると思いますね。外に出ようという意識が強いように感じます。あとは強いものが好きという文化があるかもしれません。だから自分も外に出る、外貨を稼げる組織にしたいという思いが強いです。それから外国の方も多いですし、歴史的にも、異文化のカルチャーがあってもすぐに受け入れるというか順応性が高い。これが九州の魅力のひとつかもしれないですね。

地方から世界へ、の構想が、地元の人も元気にする

麻生さんの構想は、いわゆる麻生塾とBINUSが組んで企業に求められる高度な人材をインドネシアで育成し、できれば九州ひいては日本のメーカーに貢献をしてもらえればという構想ですよね。‘行って戻ってくる’という流れを作っていらっしゃるようにも感じました。

そうですね。加えて、日本人の高校生や当校の専門学生が単位互換であちらへ行って現地で採用されるという、インバウンドとアウトバウンドの両方をしたいです。日本人の学生がBINUSの大学を卒業してインドネシアの日系企業で働く、また中東でも働ける、そのような流れを作りたいのです。今もイスラム圏であるインドネシアでは、ドバイやサウジアラビア等の中東に人材を提供しています。
麻生には6000人を超える学生が在籍し、その中で、海外で活躍したい学生はたくさんいます。我々のほとんどの学科で海外研修を導入していますので、年に100人以上が留学しています。そうした学生の後押しをするためにも、我々はまず、海外がいかに魅力的かを教職員に伝えています。教職員がグローバルにならないと学生はグローバルになりようがない。毎年東南アジアに40人ほど教員が行っていますが、例えばインドネシアのニーズがどうなのか、シンガポールの介護業界はどうなのか、海外で感じたこと、成長できたことを学生に伝えることによって学生が行ってみたいなとなる。やはり学校というのは教員ですから基本的には教員が働きやすい成長しやすい環境を学校がつくれば学生も成長していくと考えています。
一方、今のままでは日本が成長していくというのはかなり難しいのではないかと思います。韓国は内需がないから海外へ出ているように、日本もこれからそうなっていくだろうと危機感を持っていて、そうしたなかで海外でも活躍できる人材が今の日本にとっても必要だと。そして、東京などでやるよりも仮に専門学校を卒業して3年でも5年でも東南アジアで仕事をしたというキャリアがあれば、かなりのりしろが強くなると思います。

これからは、インドネシアやベトナムから謙虚に学ぶことも多くなってくるでしょうね。

そうですね。彼らは本当にハングリーですし、そういう現地の授業をやっているところへ日本人の学生が行くとカルチャーショックを受けるのです。仕事が終わって夜間に学校へ経理の勉強をしに来ていて教室に入りきらないという現地の状況を見せると、日本に居る自分たちはなんて平和なんだろうと気付くわけです。日本人の方々が、まず恵まれていることに感謝して、その先何か行動に移そう、というところまで行く、そんなお手伝いをしていきたいなと思います。海外へ行くからこそ日本の良さも分かると思うのです。

(日本マーケティング協会 MARKETING HORIZON 2014年10号掲載より一部抜粋 取材 松風里栄子)

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