インドネシアの映像コンテンツ産業には‘クリエイティビティが不足’している? インドネシアの映像コンテンツ市場規模は2560憶円と言われ、規模はまだ小さいものの年9%程度の成長が見込まれている業界である。また、日本の映像コンテンツの普及度はまだ低く、その分、今後市場として可能性は小さくないと考えられている。そんな映像業界に現地で長年身を置くSyarika Braliniさんに、現地の業界人から見た映像産業の現状と課題について話を伺った。

Syarika Bralini

映画チェーンBlitzmegaplexで映画輸入部門のマネージャー、その後映画制作部門のヘッドを務め、現在独立して映像制作会社を経営。

松風:映像制作のプロフェッショナルとして、インドネシア映像業界の発展をどのようにご覧になりますか?

Syarika:インドネシアのメディア産業は、この15年急速に発展してきました。特に、First MediaなどのペイTV、またローカルTV局の増加は、国産のTV番組制作の成長に大きなインパクトを与えて来ました。ただ、まだまだクリエイティブとしてのブレークスルーが出来ていない、というのが私の見解です。人気映画/番組のほとんどが、海外からの輸入コンテンツかアイデアの流用などです。
例えば、人気のあるリアリティショーと言えば、歌唱コンテストの、X Factorです。これはUKの番組コンセプトを輸入したものですが、現地版のリアリティショーでも、ほぼ同じ内容で、Dangdutと言われるインドネシア歌謡曲にフォーカスした番組があります。
また、TVドラマのシリーズでは、Manusia Harimauと、Ganteng Serigalaが人気です。この2つは、競合する放送局で制作されたものですが、全く同じコンセプトのドラマです(Manusia Harimauはトラ男の吸血鬼、Ganteng Serigalaはオオカミ男の吸血鬼)
さらに、この2つの番組が如何にずうずうしく、Twilightという映画をコピーしているのか、がわかりますよね。

Manusia Harimau

Manusia Harimau

Ganteng Serigala

Ganteng Serigala

Twilight

Twilight:2008年のアメリカ映画。
人間の少女と吸血鬼の恋にオオカミ族の青年が加わった三角関係のラブファンタジー

松風:それでも、このような番組が人気があるということは、実は消費者は現状の番組コンテンツに満足しているということなのでしょうか?

Syarika:決して満足しているわけでは無いと思います。ただ放送局側、制作側が視聴率に左右されすぎて、クオリティアップを追求できていないのではないでしょうか。また、制作プロダクションにとってはTV局との取引条件があまりにも悪く、制作意欲を阻害しているという一面もあるかもしれません。何しろ低コストでの制作を要求されますし、売掛期間も1年と長いケースが多いのです。

松風:映画はどうでしょうか?あるレポートによると、近年は年間70本程度の映画が作られているがほとんどは安っぽい神秘主義映画か、ユーモア映画とのことですが。

Syarika:そうですね。ローカルの映画制作ビジネスもTV番組と同様、まだまだレベルが低いのが現状です。また、投資家や金融機関にとっても、ディールの流れが不透明で資金を入れづらいと思います。TV番組と比較すると多額の金額が動く映画制作には、プロジェクトデザインの観点でもクリエイティビティが必要だと感じています。

松風:消費者の観点から見ると、映像コンテンツに対する行動はどのように変わってきたのでしょうか?

Syarika:インターネットとモバイルテクノロジーにより、消費者は映像コンテンツに対してよりインタラクティブなもの、より参加型のものを求めるようになりました。映画とTV番組は、もはやお互いだけで競合するのではなく、オンラインチャット、インターネットショッピングといった「インスタントエンタテイメント」とも競合すると認識した方が良いでしょう。コンテンツ制作にも強力な‘エンゲージメント要素=ストーリー’が必須となっていると認識しています。

松風:それは日本も含めて多くの国で同様ですね。さて、このような環境下、映像コンテンツ制作業界にはどのようなチャレンジが求められますか?

Syarika:「クリエイティビティ」の再定義だと思います。例えば、政府はもっと高品質の映画制作をサポートするために、ファシリティを提供したりしています。業界も技術支援や高機能のカメラを使用することが、映画産業の発展につながると思っていますが、それはクリエイティビティを高めることには関係ないのです。インドネシアでは、クリエイティビティは主に結果としてのプロダクトと関連付けられていて、制作過程とはあまり関連付けられていませんでした。これではイノベーションの余地が少なくなるのも仕方ありません。
私は、インドネシアには本来クリエイティブな力があると思っています。この国には、イノベーションを創出するため理想的な条件である民族的、宗教的、文化的多様性が備わっているからです。しかし、我々には、そういったクリエイティブのイノベーションを阻害する、「同調性」(他と同じであることを大事にする文化)というカルチャーもあるのです。我々は、この「同調性」を転換して、‘既に描かれた社会的期待に合わせていく’というコンフォートゾーンから踏み出し、‘まだ描かれていない可能性の海へ出ていく’意識を持たなければ行けません。そのために、私は映像制作とは別に、人々のクリエイティビティを育成するため、「Story Thinking」という手法を使ったコーチングのプロジェクトを始めようと思っています。

松風:まずは、人が変わらないと業界も変わらない、ということですね。示唆に富んだお話し、ありがとうございました。

日本コンテンツの人気度についても聞いてみました

Syarika:昔は「おしん」が大ヒットしました。少女が困難に打ち勝ちながら成長していく姿を描くというところが人々の心を掴んだと思います。Game Showの“Tawar Tawaran Tawa”(TBSがライセンスしたクイズ番組)も近年では人気があった番組です。でも今は韓国のTV番組の方が人気があります。映像コンテンツでは無いですが、日本発のメディアコンテンツと言えば今はJKT48ですね。

注1. 2012年度DCAJ調査
注2. コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性 2014年経済産業省

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