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国ごとに異なる制度が参入戦略を変える ―東南アジアにおけるビタミン・ミネラル・サプリメント(VMS)市場- 新興中産階級の拡大と消費者の健康意識向上を受けて、東南アジアではビタミン・ミネラル・サプリメント(VMS)市場が著しい成長をみせている。各国でサプリメントの売り上げは拡大傾向にあり、特にインドネシアとベトナムでは、過去5年間で売り上げが2倍に伸びている。市場環境や顧客動向等、東南アジアにおけるVMS市場の現状を報告する。

取材協力:リー・ブイ 氏

ノバルティス・コンシューマ・ヘルス社東南アジア担当エクイティ・ブランド・カテゴリーマネージャー
PepsiCo、Wrigley、Beiersdorf、LG等の多国籍企業にて10年以上のマーケティング経験を積み、2012年、ノバルティスに入社。現在、VMSを含めたエクイティ・ブランドの東南アジア地域担当カテゴリーマネージャー。シドニー大学より商業学修士号(マーケティングおよびファイナンス専攻)を取得。

高まる競争環境と、新規参入の鍵

東南アジアのVMS市場における競争は熾烈である。ファイザー、グラクソ・スミスクライン、ノバルティス、バイエル、サノフィといった世界の大手企業は、カルベ、タケダ、ユナイテッド・ラボラトリーズといった地域の有力企業との競争にさらされている。国によってトッププレイヤーとなっている企業が大きく異なり、どのブランドも国をまたいだ独占的なポジションを占めることはできていない。例えば、インドネシアにおける強豪ブランドはHemaviton(テンポ)、You C1000(ハウスウェルネスフーズからのライセンスでジョジョネゴロ)、Fatigon(カルベ)である一方、マレーシアではAppeton(コトラ)、Blackmores(ブラックモアズ)、Scott's Emulsion(グラクソ・スミスクライン)となっている。ハーブや自然商品、それに栄養強化食品や機能性食品などの参入も、競争を激化させている。

市場競争は激しいものの、市場のダイナミズムや消費者の健康意識の高まりといった、新規参入企業にとって良い条件も揃っている。中でも、商品イノベーションは競争力獲得のための鍵であり、消費者ニーズにマッチした新たな成分の組み合わせにより、即座に消費者の関心と人気を集める可能性がある。また、流通や情報戦略により、新たなブランドが伸びる可能性もある。東南アジアでも企業の信頼性は非常に重視され、VMS市場は、良くも悪くも宣伝に強く影響されることから、新規参入企業は、現地におけるブランド力構築についても、十分な戦略が必要である。

同じ商品でも、国の制度により参入カテゴリーが異なる

VMSの規制に関しては、商品をOTC医薬品と見るか食品サプリメントと見るか、また、認可へのリードタイム、プロモーションと情報発信に関する規制にいたるまで、各国によって大きな違いがある。例えば、ベトナムでカルシウムのミネラルブランドを発売しようとした場合、通常OTC医薬品とみなされ、関係当局からの認可を取得するのに18か月かかるが、もし同じ商品をインドネシアで発売しようとした場合、インドネシアではサプリメントとみなされ、当局からの認可取得にかかる時間は6か月ほどをみておけばよい。

国々の規制の違いは、流通能力やプロモーション活動にも大きく影響する。OTC医薬品の販路が病院や薬局に限られる一方、サプリメントや栄養剤はスーパーマーケットへの大規模流通が可能だ。また、商品がどのように説明され、どのようなプロモーション活動が許されるか、などについての規制も存在する。もし商品がOTC医薬品と分類されれば、非常に厳しい条件を満たす必要性が生じることになる。

摂取しやすい形状からヒットする可能性

VMSの需要を押し上げているのは、セルフメディケーションに対する消費者意識の高まりや、収入の向上といった要素である。医療コストが高くなり、消費者がサプリメントなどを予防的に使うようにもなってきている。精神的プレッシャーやストレスがかかる生活、また、薬局チェーン店の人気の高まりも、VMSの売上に貢献している。シンガポールやマレーシアにはかなり高いレベルで健康意識を持つ消費者がいる一方、健康意識の向上度合は、VMS市場の成長が著しいインドネシアやベトナムのような開発途上国で顕著である。

マルチビタミンはどこの国でも共通して人気が高く、身体の発育や活力を促進させるものとして重宝されている。単一ビタミン分野では、ビタミンCが依然主要な摂取ビタミンである。ミネラルの分野では、政府や多国籍企業が女性の骨の健康に関する情報発信に力を入れていることもあり、カルシウムが人気を集めている。

また、ハーブや天然系の商品の人気が目立つ国もある。ベトナム、タイ、フィリピンなど多くのマーケットで欧米の商品が人気である一方、インドネシアでは伝統的なジャムーが人気であり、欧米の商品の利用は限定的である。なお、ハーブや天然系の商品はOTCとは異なる規制対象である。

消費者の購買動機に関しては、当然のことながら、「効能」がもっとも重要なファクターであるが、その他、「値頃感」や、「医師、家族、友人などから勧められたため」というファクターもある。また市場が成長するにつれて、消費者は、飲み込むタイプの錠剤や噛み砕けるタイプの錠剤など、摂取しやすい形状を好む傾向があり、新たな形状の商品を発売して品揃えを拡大する企業もある。例えば、テンポのブランド「Hemaviton」は健康飲料への多角化をはかり、カルベは「Fatigon Hydro+」というアイソトニック飲料で大きな成功をおさめた。


© PT.Tempo Scan Pacific

© Solomon S. Pribadi

80年代、90年代のブームに比して伸び率が落ち着いた日本のVMS市場とは対照的に、東南アジアのVMS市場は、ライフスタイルの変化や収入の向上などを背景に、今まさに活況を呈している段階である。東南アジアにおける主な購買層は、仕事が忙しく、健康意識が高まり、即座に効果が感じられるサプリを求める、新興中産階級である。これは、日本では、市場に影響を与える鍵となる購買層である、多忙な働く30代・40代女性という消費者像にある程度類似していると言える。東南アジアの状況と少し違うのは、日本では高齢化社会特有のニーズを背景に、主な購買層が60代以降の高齢者であるという点である。市場規制もまた興味深い比較要素である。日本では、2015年初めに「新・機能性表示食品制度」が始まり、今後数年にかけて同分野での市場拡大が期待されている。米国でも、1994年の「栄養補助食品教育法」導入後、市場が一気に拡大した。東南アジアの国々が同様の道を辿るとは限らないものの、規制の変化が市場にもたらす影響の大きさを考慮すれば、規制動向について引き続き注視する価値がある。

(コンサルタント 久保田麻衣子)


※source: Euromonitor international

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