税理士から見る、ミャンマービジネス最新事情 〜現地パートナーとの協業、ミャンマー企業の内部統制と経理改革の実態〜 2015年11月、ミャンマー総選挙で、NLD(国民民主連盟)による歴史的な政権交代が実現する見通しとなった。中国、インド、イギリスなどに比べ、日本全体ではまだまだミャンマーへの投資規模は小さいが、今後は経済成長に期待して、日本含め各国の進出が益々加速していくと予測されている。そんなミャンマーで、会計事務所の責任者を務める若松裕子氏と、現地パートナーとの協業事情、またローカル企業の経理改革の実態を考察する。

2015年11月、ミャンマー総選挙で、NLD(国民民主連盟)による歴史的な政権交代が実現する見通しとなった。中国、インド、イギリスなどに比べ、日本全体ではまだまだミャンマーへの投資規模は小さいが、今後は経済成長に期待して、日本含め各国の進出が益々加速していくと予測されている。そんなミャンマーで、会計事務所の責任者を務める若松裕子氏と、現地パートナーとの協業事情、またローカル企業の経理改革の実態を考察する。

若松氏は、ヤンゴンにあるJapan Outsourcing Service Co.,Ltd,という会計事務所の責任者である。進出のきっかけは、若松氏が日本で所属している会計事務所の代表税理士が、ミャンマーに視察に行った際、当時それを見て「これは会計ニーズがある」と感じたことであった。当時、日本の会計事務所は数社しか出ておらず、国としてもまだまだ何もない状態で、会計を見ても複式簿記ではなくお小遣い帖のようなものだったという。「これから発展するミャンマーには、国際基準の会計などきっちりしたシステムが絶対必要になるし、それを自分たちでもたらしたい」、という思いで進出を決めたそうだ。

その後1年間のFSを経て、2013年に現地に会社設立となった。FSでは、主にミャンマーで提携するパートナー会計事務所を探しが中心となったそうだ。ミャンマーでは、ミャンマー人会計士でないと監査ができない。(ミャンマーでは、監査人はミャンマー国公認会計士である必要があり、税務申告にも会計士の監査済の決算報告書の提出が求められる)。従って、ローカルの提携先を探すのは絶対条件となる。

1. 一筋縄ではいかない、現地パートナーとの協業

センシングアジアにも良く相談がある、現地パートナー開拓。FS段階で複数のパートナー候補を当たり、比較や交渉をするのはもちろん重要だが、決めたパートナーと安定的に協業関係が築けるとは限らない。若松氏も、FSでパートナー会計事務所を一旦決めたものの、最初に決めたパートナーとは、結局契約を解除することになったと言う。

「最初に決めたパートナーは、非常に金額が高く、監査費用について日本よりも高額の提示をしてきました。ローカルの他会計事務所にはその1/3から1/4の金額で頼めたので、法外な値付けでした。実はそのころCPA(公認会計士)組合が談合し、日系企業や外資からの仕事には、裏で申し合わせて値段を釣り上げている、ということがありました。そのグループに属する事務所は、みんな高くて割に合わない、ということになり、他の会計事務所をまた探すことになりました。色々当たって、別のローカルの事務所と提携したのですが、その後、その事務所の先生(会計士)が急きょ死去されて、また一から提携先を探すなど、紆余曲折ありました。多くのローカル会計監査法人は、一人事務所に近い形なので、会社と契約したといっても、その当人がいなくなると機能しないのです。一人に頼むのはリスクが高いと学習し、今では2社と提携しています。」

ローカルの会計事務所に対する日本の会計事務所の強みは、「きっちりした会計処理」。

「ローカルは日本のように細やかな会計サービスをしていません。一言で言えば、杜撰な会計。例えば先日は、勝手に申告書を作って出されてしまった、というケースの駆け込みがありました。それを見ると実際の数字と、申告数字が大きく違いました。でも「ミャンマーではこんなもんだよ」と言われたとか。PLはともかくBSがぐちゃぐちゃで、流動資産が大きく膨らんでいました。これは帳尻を合わせるのは大変なので、一からやり直しました。こんな感じで、とにかく杜撰です。実際、当社が組んでいるパートナー会計士も、杜撰ではないですが、「言わないとやらない」、「聞かないと答えない」という部分はあります。」

2. ミャンマー企業の内部統制と経理改革

他の新興国でも見られる話であるが、ミャンマーのローカル企業も、まだまだ内部統制が出来ていない。お金の垂れ流し状態の企業が多く、社長以外みんなグルで、不正をしているという状況もあったりする、従って、不正をなくす会計システムには非常にニーズがある。日系企業だけでなく、ミャンマーのローカル企業の経理改革も手掛ける若松氏に聞く、その現状とは。

「不正の手口はいっぱいあります。領収書の改ざんなど序の口。仕入れ担当者が仕入れ業者と癒着してバックマージンを得る。仕事の管理が杜撰なので、実際の稼働と、大幅に稼働を水増しされて請求されるものが見抜けない。不正な支出を見抜けない、あるいはザルになっていてわからない。経理担当含め、社員複数がグルで不正に加わるので、不必要な支出でも稟議が通ってしまう状況も。
また、在庫や資産の横流しも多いです。棚卸はするけれど、ただ目先にあるものしか数えていなく、値段も入っていないような在庫表だったり。ですからローカル企業の社員さん達に対しては、『在庫には全部ラベリングして、種類別に管理するんだよ』と言って指導するところからですね。何も仕組みがないので、全部一からです。」

経理の改革は、実際にローカル企業の中に入りって進めていく。

「あらゆる部門の人とよく顔を合わせて、『こうしたら良くなるんじゃないか、こうしたら正確になるのでは』、ということを話し合います。コミュニケーションは、英語、ミャンマー語、日本語が入り混じって決してスムーズではないのですが、『これは出来ない』と言ってくることに対して、「いや、出来るはず」と励ましています。そうすると、実際どんどん改善しますし、マネージャーもやる気が出てくる。それはとても達成感がありますね。何も知らなかったミャンマースタッフさん達が、どんどん、「自分は何のプロなのか、何のマネージャーか」、を自覚しだして、自走し始める。これが、私にはすごく快感です。でも、ミャンマー人の特徴で、その場では自覚してわかったつもりでも、時間が経つとすると忘れてしまうので、常に伴走しなければ行けないのですが。」

ミャンマーは、最後のフロンティアとも言われ、アセアン経済共同体による経済回廊の整備や、工業団地の増加もあり、弊社にもビジネス展開の相談が多く寄せられる。若松氏によると、ミャンマーで上手くいく日系企業には、「情報収集と情報発信」という共通項がある。

「まだまだ日系企業のコミュニティが小さいので、情報が集まってくる立場の方は、比較的うまく行っていると思います。これには、足で稼ぐことも重要です。異業種交流会への参加、プライベートな飲みやゴルフコンペ、勉強会、など。でも最も大切なのは、自分が情報を取得するだけではなく、有用な情報を人に渡せるか、ということですね。自らが情報発信をしていくことが、ポイントだと思います。」

若松氏自身、自らワンストップで企業の相談に乗るよう、心掛けているという。政権が変わったとは言え、まだまだインフラや社会的仕組みの不備、一方で労働コストや不動産価格の上昇など、国として不安定なミャンマーである。また輸出入手続き一つとっても、非常に煩雑で時間がかかる。ただ、地政学的にも重要な位置にあり、今後のインフラや制度の整備を見越して、この国でチャレンジしたい企業や、アセアン経済圏の中でミャンマーを拠点として活用することを検討する企業は、これからも増えていくであろう。

(松風里栄子)


取材協力:
原&アカウンティング・パートナーズ ヤンゴン事務所(Japan Outsourcing Service Co.,Ltd.)所長 税理士 若松裕子氏

Manusia Harimau

今回取材協力いただいたミャンマーの税理士若松氏
(ヤンゴンの事務所にて)

Ganteng Serigala

会計事務所のローカルスタッフ
(ヤンゴンの事務所にて)

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