インドネシアにプログラマティック・マーケティング普及の兆し アジアのデジタルマーケティングの未来(3) インドネシアのデジタル広告市場の成長ぶりが目覚ましい。米系調査会社イーマーケターによると、インドネシアのペイドメディア市場は2019年まで、世界第2位の速さで成長する見通しだ。2015年にはペイドメディア全体の1割に満たなかったデジタル広告市場は、2019年には4分の1を占めるようになる。東南アジア最大の人口2億5000万人を抱えるこの国は人口構成が若く、デジタルネイティブの比率も高い。また、Facebook人口が世界第4位と、ユーザーのSNSとの親和性も非常に高い。今回は、インドネシアのデジタル広告市場の傾向、特にプログラマティック・マーケティングの動向を分析する。

プログラマティック・マーケティングの機を狙う外資

現在、ASEAN(東南アジア諸国連合)全域でプログラマティックな手法の導入が進んでいる。インドネシアでは、現状は大半の企業が旧来のオンラインメディア買い付けの仕組みを踏襲しているが、それも変化しそうだ。オンライン動画広告のDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)を提供するTubeMogulによれば、インドネシアにおけるプログラマティック動画広告配信は東南アジア域内でも最高の伸び率を見せている。インドネシアの半数以上のマーケターが、プログラマティック・バイイングの導入を検討しているようだ。

(ボットなどを使った無効なクリックやインプレッションである)アドフラウドの懸念をどう乗り越えるかや、データサイエンティストの育成・拡充など、課題も多いが、全体としてプログラマティックの方向へ進んでいることは疑いの余地がない。


フリークアウトとジーニーなど、インドネシアに現地法人を設立する
日本企業が増えている

こうした流れを背景に、昨年来、外資、そして日本からインドネシアへのアドテク企業の本格進出が相次いでいる。フリークアウトやSSP(サプライ・サイド・プラットフォーム)提供のジーニーが2015年に相次いで、インドネシアに現地法人を設立した。また、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)も2015年に現地で合弁会社を設立し、DMPを中核とするマーケティングソリューション事業を展開していくことを発表した。

さらに広告世界最大手WPPグループは、2016年3月に、グループ内外のデータパートナーシップを推進し、ビッグデータの活用を進めていく「データ・アライアンス」をインドネシアでも設立することを発表した。これはインド、(サハラ砂漠以南の)サブサハラ・アフリカ、北米に次いで4番目の設立であり、インドネシア市場に対する期待度の高さがうかがえる。

このような外資の広告エージェンシーの参入に対し、現地でもビッグデータを通してプログラマティック・マーケティングに独自サービスでアプローチしようとするベンチャーが現れている。中でも、2015年9月にインドネシアで設立されたベンチャー企業スナップカートは、急速に注目を集めている。

人工知能を駆使してアプローチ

同社は買い物をした際のレシートの写真をアプリからアップロードしてもらうことで、ユーザーの銀行口座にキャッシュバックをするサービスを展開している。ユーザーは、アプリ内でアンケートに答えたり、特定のブランドの商品と一緒に自撮りをしたりすることで、ポイントをさらに稼ぐこともできる。これがプロモーションキャンペーンやお得な割引を楽しむ国民性にマッチし、スナップカートのアプリは瞬く間に「Google App Store」ランキングの上位に入った。2015年9月の正式ローンチの段階で1万2000件だったアプリのダウンロード数は、2016年1月に15万件以上になり、月間アクティブユーザー数は8万5000人を超えるという。


スナップカートアプリの月間アクティブユーザー数は8万5000人を超える

ユーザーへのキャッシュバックはブランド側がサポートするが、ブランド側にとっても、メリットは多い。スナップカートは会社設立まもなくからネスレ、ロレアル、P&G、ユニリーバといった消費財大手を含む35以上のブランドと提携、ブランド側からの評価は非常に高い。ブランド側にとっては、今まで、キャンペーンを打っても、全体の売り上げの変化はトラック出来たが、個別の消費者の行動の変化まではトラックすることはできなかった。しかし、スナップカートが集めるデータにより、消費者行動が、そのロケーションを含めて、リアルタイムでつぶさに把握できるようになったのである。

これにより、ターゲティングの精度を高め、よりパーソナライズしたキャンペーンを実行できるようになった。さらにスナップカートには、アプリ内での商品との自撮りなどで、顧客エンゲージメントを高められる魅力もある。

この事業の注目に値する点は、2つある。1つ目は、人工知能(AI)がレシートから生データを抽出し、そのデータを分析してリアルタイムの消費者インサイトを導き出し、ブランド側がすぐに使える消費者行動の詳細情報の形にまとめあげるという点である。実は、レシートのデータを元にキャッシュバックするという仕組み自体は、アメリカのアイボッタも実施しており、特別新しいものではない。

しかし、アイボッタのユーザーが、レシートの写真のみならず、キャンペーンの対象となる商品のバーコードの写真も送らねばならないのに対し、スナップカートは、AIを駆使してレシートから生データを抽出できるため、ユーザーはレシートの写真を1枚撮るだけで特典を得られる。ユーザービリティ上の大きな違いである。

2つ目は、リアル店舗の売り上げビッグデータにアプローチできるようになることだ。インドネシアではEC(電子商取引)企業が伸びてきているものの、消費者行動を見ると、クレジットカード決済を利用する人が少ないことから、リアルな店舗での買い物の方がいまだに好まれる傾向にある。これまで、オフライン店舗のデータをまとめることは非常に困難で、店舗内での調査や、戸別訪問などが実施されてきたが、どれもレシートデータに比較すると不十分であった。

日用消費財ブランドは、広告出稿先として、フェイスブックやグーグルを、ブランド認知度向上などのために使っている。が、リアルタイムの消費者データを把握するEC企業と同じレベルでは使いこなせていなかったのが現状であった。今後スナップカートは、さまざまなタイプのレシートへの対応を進め、レシート印刷するキャパシティーのないパパママショップのような小規模店への対応も進めていく予定である。

スナップカートは2016年8月、フィリピンへの進出も果たした。インドネシアとフィリピンは東南アジアの人口上位2つの巨大市場である。今後はアジア各地への更なる拡大を予定している。爆発的に伸びるインドネシアのデジタルマーケティング市場に対して、外資のみならず独自のサービスで商機をつかもうとするローカルベンチャー企業。そのローカルベンチャー企業が、今度はアジア各国へ触手を伸ばしている。今後もアジアのデジタルマーケティングの未来から目が離せない。

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