インドネシアの生活動線に、新たなマーケティング機会:アジアのデジタルマーケティング(2)インドネシアは広告メディアとしては依然テレビが主流であり、2017年のデジタルメディアへの投資は17.1%と、東南アジア主要6カ国と香港・台湾の平均44.4%から大きく水を開けられている。2020年に至っても、インドネシアのデジタル広告の割合は21.5%と、域内で最も低い水準と予測されている(データ出所:IAB Singapore、eMarketer)。しかしよく観察してみると、インドネシアでは、生活動線の中で効果的にデジタルを活用したマーケティングのユニークな事例がいくつかある。今回はそうした事例を紹介したい。(日経デジタルマーケティング2017年9月号に弊社代表松風が寄稿しました。)


個人の車に企業広告を出稿するサービスを展開しているUbiklan。
これはPOLYTRONという現地の家電メーカーが自社エアコンを訴求する内容

インドネシア都市部の生活動線を考える上で、外せない要素がに日常生活を悩ませるひどい渋滞である。これに対し、渋滞を広告露出の場として活用しようとするたサービスが最近、登場してきた。自家用車やバイクの個人ドライバーと広告主とをつなぐクラウドソーシング広告プラットフォームである。自家用車版のUbiklan(ユビクラン)とバイク版のKarta(カルタ)という2つだ。

Ubiklanは個人の自家用車に企業の広告を貼り付けるサービスを展開している。社名でもありサービス名でもあるUbiklanは、「ユビキタスなイクラン(インドネシア語で広告の意)」という言葉遊びに由来している。同社のサービスは、車の所有者の日々の運転ルートなどを参考に、どの車を利用するか、車のどこに広告を貼るかなどを広告主企業が指定できる。広告を掲載する側も、広告を打つ企業側も、専用アプリから簡単に登録および利用が可能になっている。


バイク広告を展開しているKartaのサイト

広告を掲載する車にはGPS(全地球測位システム)システムが貸与、搭載されるため、企業は専用アプリから、自社広告を掲載した車の動きをリアルタイムでトラッキングできる。広告を掲載した人は、所定のリーチを確保するため、決められたキロ数を運転することが求められている。そのため企業は、そのデータから想定インプレッション数を確認できる。

一方Kartaでは、バイクの所有者がバイク本体に広告を掲出するか、広告を貼り付けたジャケットを着て運転するか、を選べる。広告主は、出稿するバイクの数や、いつどこにバイクを走らせるかなどを指定できる。Ubiklanと同様、バイクにはGPSが搭載され走行状態を管理できるため、バイクの居場所をトラッキングでき、事前に設定したキャンペーン地域で、広告を掲載しているバイクが走行していることを確認できる。

インタラクティブな施策も可能

料金は、タクシーのようにキロ当たりの支払いとなっている。広告主の予算内に抑えるため、1日ないし1カ月当たりの費用の上限を決めることができる。加えてKartaでは、バイクの機動性を生かし、無料で商品をサンプリングするなど、インタラクティブなマーケティング・キャンペーンも展開できる仕組みになっている。

インドネシアでも、タクシー広告やバス広告は存在する。UbiklanとKartaは、デジタルプラットフォームを活用して、機動的にプロモーションを実施できること、そして露出状況をトラッキングできることが売りとなっている。クラウドソーシング型のビジネスモデルであるため、コスト効率に優れる点もアピールし、広告主の裾野を広げようとしている。メディアとなるドライバーにとっては、通勤や通学、移動時間を利用して小遣い稼ぎができる。Kartaのライダーに対する売り文句は「Kartaでガソリン代を稼げる」である。

どちらも2016年に登場した新しいサービスで、広告手法としての認知はまさにこれからだ。ビジネスとしても、まだまだ発展途上ではある。しかし、データやスマホアプリなど、デジタルを活用しつつ、渋滞を逆手に取って広告機会につなげるという「サービスのコンセプトが面白い」と、現地企業は期待感を持って見ているようだ。デジタルプラットフォームに乗せながら、商品(広告)そのものはアナログというのも、インドネシアの実情に合った戦略だと言える。



ユニリーバは「Rexonaストリートビュー」と呼ぶリッチメディア広告を展開

もう1つ、生活動線に沿ったマーケティングを展開している事例を紹介しよう。GPSデータを使ってターゲティングしているユニリーバのデオドラント製品の取り組みである。ユニリーバのデオドランドブランド「Rexona」は、体臭を防ぐ抗菌機能が売りだ。そこで、消費者が汗や体臭を気にするようなタイミングや場所でメッセージを発することで、効率的かつ効果的にエンゲージし、商品の認知度を高めようと考えた。

まず、ペルソナおよび時間帯でのターゲティングにより、18〜35歳までの男性、そして仕事帰りの疲れて汗ばむ夕刻をキャンペーンのターゲットとした。次に、「Rexonaストリートビュー」というAR(拡張現実)「を活用したリッチメディア広告を作った。広告は、ジオターゲティング機能を活用して、埃っぽく混雑したバス停や電車の駅にいる仕事帰りの男性に対して露出した。

蒸し暑いバス停を360度画像で“体感”

例えば、男性がバス停に向かって歩きながら、ニュースサイトをチェックすると、リッチメディア広告がポップアップする。バナーをクリックすると、インタースティシャル広告がスクリーン全面に表示される。そこでは外気温や湿度を確認できることに加え、徒歩で向かっているバス停付近の360度のグーグルイメージビューを見ることができる。蒸し暑いバス停の様子を、実際にその場にいるように見ることができるので、インパクトは絶大だ。

Rexonaのような体臭を防ぐ抗菌機能を持ったデオドランドという商品を、まさにユーザがそういった商品が必要と感じる時間と場所で、ピンポイントでアピールしている。この広告を見た後、消費者が「さらに見る」をクリックすると、割引クーポンのコードが表示される。このスクリーンショットを販売店で提示すると、Rexonaの割引が受けられる。

このようにマクロに見れば、インドネシアは域内の他の国に比べてデジタルマーケティングの実践度合いはまだまだ低い。ただ、その中でも、現地の生活事情、生活動線に沿って、デジタルをうまく活用した効果的なマーケティング事例が生まれている。イスラムと民主主義が共存する国インドネシアでは、激し過ぎる変化はあまり好まれないという。ゆるやかに、そしてしなやかに、ユニークなマーケティングアイデアの種が育ち、芽生えている。ジャカルタ市内でのろのろと進む車の中、車内から見えた風景は、やはり周囲の車のボディーだった。

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