取材する前に読者が特集記事を予約購入、台湾メディアが挑む新たな課金モデル:アジアのデジタルマーケティング(3)広告収入で稼ぐメディアが多い中、台湾の「ストームメディア」(風傳媒)は記事を予約販売する新たな課金モデルを模索。さらにEC(電子商取引)機能も導入予定だという。独自進化を遂げている台湾デジタルの最前線を追った。(日経デジタルマーケティング2017年10月号に弊社代表松風が寄稿しました。)


「Stay True」をポリシーとするオンラインニュースメディア
「ストームメディア」(風傳媒)

台湾は中華圏に属しており、ジャーナリズムがポリティクスに左右される。ゆえに、台湾のジャーナリズムの質がお粗末であると考えている台湾人が多いという。客観性に欠けた記事、あるいは、自社なりの視点を持つ編集の少なさなど、ジャーナリズムに対する不満は日本の比ではない。「ストームメディア」(風傳媒)は、そんな台湾ジャーナリズムに疑問を投げかけるべく、「Stay True」をポリシーに張果軍氏によって設立されたオンラインニュースメディアである。

設立は2014年とその歴史は長くないが、豊富なコンテンツを武器に既に月間約500万人のユニークユーザー数を獲得し、最も影響力の高いメディアの1つとして急速に勢いを増している。また、2017年4月には中国語の週刊誌「The Journalist」(新新聞)および「Taiwan Indicator Survey Research」(台灣指標民調)を買収し、新興オンラインメディアによる伝統的メディアの買収劇として、話題になった。

台湾メディアの収益モデルは、基本的には広告収入がベースとなっている。ストームメディアも85%が広告収入で、残りの15%は他社に対する記事の販売だ。しかし、グローバルに広告費の投下先がプリントメディアからオンラインメディアへとシフトし、さらにアドテクノロジーがより効果的で、より効率的なターゲティングと広告露出を可能にする中、台湾メディアも新たな収益モデルへのシフトを模索している。

ペイド・サブスクリプションへとシフト

もちろんストームメディアも例外ではなく、デジタルマーケティングをテコに、新たな収益モデルの確立を目指している。その1つが、読者が掲載記事を購入する「ペイド・サブスクリプション・モデル」である。厳密には、掲載予定記事を購入予約し、掲載時に支払って読むという仕組みだ。自社の記者や契約ライターは、まず「このようなコンテンツの特集記事を書きたい」という提案を、読者に対して行う。読者が「お金を払ってでも読みたい」となれば、記者は独自取材や調査を開始し、原稿執筆にとりかかる。

これは、読者とダイレクトな関係を持つことによるエンゲージメント強化策であり、ある意味では「読者がニュースサイトの記事ページを編集している」とも言える。もちろん記者にとって取材や執筆のインセンティブにもなる。


音楽、フィルム、ゲーム、作家などのクリエイターとスポンサーとを
マッチングする「プレスプレイ」

同じようなペイド・サブスクリプション・モデルを採用している台湾企業に「プレスプレイ」がある。プレスプレイはクリエイターのプラットフォームで、音楽、フィルム、ゲーム、作家などさまざまなジャンルのコンテンツクリエイターとスポンサーとをマッチングして、クリエイターに活躍の場を与えると同時に、より多くの読者や視聴者を獲得することを支援している。

このプレスプレイは元々、プロジェクト・ファンド・レイジングのプラットフォームとしてスタートした。その後、ネットクリエイターやユーチューバー、ナレッジクリエイターが急速に増えたことに対応し、ネット上の卓越したクリエイターの収入の安定化と、より素晴らしいコンテンツクリエイション、そしてクリエイターとサポーターがより近い距離で交流することを目指して、現在のモデルへと移行した。

台湾を含む中華圏では「良いコンテンツを得るには対価が必要」という概念は、いまだに一般的とは言えない。「情報はタダ」と捉えがちな日本も同様かもしれない。しかし無料のコンテンツがあふれる中、価値あるコンテンツだからこそ得られるメリットがある、といった意識は高まっている。いわば学習対価という観点から、良質なコンテンツへの欲求とペイド・サブスクリプション・モデルが若い世代を中心に、少しずつ浸透し始めているようだ。

ストームメディアは、コンテンツに対する課金モデルの次に、Eコマースモデルへの展開を志向している。「コンテンツに対する課金が可能であれば、同一プラットフォームで商品に対して課金することも非常に自然なことだ」と張氏は言う。例えば、旅行に関する記事を読む読者に対して、ツアーパッケージを売るという提案は、従来では旅行会社が広告主として、メディアに出稿するものであった。これをメディア企業そのものが、Eコマース企業として実施するということだ。

Eコマースの仕組みを可能にするのは、コンテンツのパーソナライズドエンジンの戦略的活用である。一人ひとりの読者のサイト内行動、記事閲覧や購入履歴に合わせて閲覧レコメンドする記事や提案する商品を変えていく。従来は広告主とメディアの間に第三者機能として存在したユーザー情報収集、ターゲティングなどの機能がメディアそのものに取り込まれ、商品レコメンド情報として活用される。張氏は「今年の秋から冬にかけてEコマースの機能をローンチする」と話す。

メディア企業こそECに向く

通常のEコマースサイトは、顧客にプッシュメールを送る、休眠顧客にクーポンを配信する、あるいはさまざまなセール施策を打つなど、プル型マーケティングを取らざるを得ない。一方、ストームメディアは、ニュースメディアという、毎日あるいは定期的にサイトを訪れる多数の読者、つまり顧客を抱えていることを活用できるアドバンテージがある。この特性こそがコンテンツディストリビューターとしてベストで便利な側面であり、ビッグデータを存分に活用することができるともくろんでいる。

張氏は、「メディアサービスを持つインターネット企業こそが、多くのユーザーを引きつける」と語る。その言葉の通り、ストームメディアは今後、オンラインニュースメディアから、コンテンツのディストリビュター、そしてコンテンツマーケティング企業へと変身しようとしている。パーソナライズドエンジンとビッグデータを活用して、コンテンツや商品を的確に届ける、この戦略が台湾の消費者にどう受け取られるか。成果が見えるのは来年以降になる。

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