30億人のデジタル市場狙い、シンガポールと中国でネット企業が独自の進化 アジアのデジタルマーケティングの現在 デジタルマーケティングに国境はない。アジアだけで見ても、30億人以上がネットを介してグローバルにつながる時代となり、今後5年で、デジタルの変化はさらに加速するだろう。そんなアジアの「デジタルマーケティングの今」を2回にわたって取り上げる。今回は、オンラインプラットフォーム企業のデジタルマーケティング、さらに従来のアナログ業界が、オンラインプラットフォームに移行していく動きを取り上げる。

デジタルマーケティングの手法はユニバーサルだとはいえ、韓国やシンガポールのような先進国、また特別のネット環境を持つ中国、そして成長著しいASEAN諸国など、地域によって、社会経済環境、技術進歩やインフラ環境、民族性などからの違いは存在する。

インドネシアは通信速度の低さ、決済手段の選択肢が少なかったことなどが少しずつ解消され、同時に急速にモバイルからのクエリが増加、時間・場所・デバイスに対して最適化する時代へ移行しつつある。ベトナムは、インドネシアのそれよりはスローペースであるが、企業がマーケティングインターフェースを、PCからモバイルにシフトしている最中だ。

そしてシンガポールは、市場規模こそ小さいものの、欧米企業があらゆるデジタルマーケティングの手段を持ち込んでいる。シンガポールのメディア開発庁によれば、携帯電話/スマートフォンの普及率は148%にのぼり、先進国の平均120.8%を大きく上回る。また、ペイパルによると、オンラインショッパーの55%がモバイル経由で購入している。

「ZALORA」のシームレス体験戦略


「ZALORA」はLINEと組んでモバイルECを推進

シンガポールの「ZALORA」というファッション通販サイトの事例を見てみよう。同社は2012年に設立され、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、オーストラリアでも展開する急成長企業である。

2014年の1年間で、ZALORAのアプリは500万回ダウンロードされ、全トラフィックの半分以上がモバイル経由であった。これが2015年末までには、モバイル経由が70%になるだろうと予測されている。

ZALORAのこれまでの成長を支えたマーケティング戦略は、主にFacebookとSEM(サーチ・エンジン・マーケティング)によるカスタマーリーチ、そしてアフィリエイト施策であった。しかし現在は、モバイル最適化マーケティングにシフトしている。その一例が、LINEとのパートナーシップである。タイで実施された、LINEのモバイルEC(電子商取引)サービス経由のユーザーにスペシャルディスカウントを提供する「LINE HotDeal」は、大量のトラフィックを生み出したという。同様の施策は、フィリピンでSmartと組んで、マレーシアではWeChatと組んで実施されている。

今後、ZALORAは「モバイルオンリー」市場に向けた戦略にさらに舵をきっていく予定で、ViberやLINEなどと組んだショッピングチャネルを開設し、様々な施策を検討しているという。

また、ZALORAは近年積極的に、ショッピングモールの空きスペースや、イベント会場などに期間限定で出店する「ポップアップストア」を展開し、シームレスなショッピング体験の効果を試している。従来の小売業がO2O(オンラインtoオフライン)戦略を練るとすれば、ZALORAは「オンラインとオフラインの統合戦略」を狙っている。もっともこれは、シームレスという戦略以上に、アジアの国々の国民性にマッチした戦略なのかもしれない。インドネシアやタイでは、ショッピングモールでほぼ丸1日過ごすことが、家族の典型的な休日シーンだからである。

同社のシームレス戦略のもう1つの柱が、「同日デリバリー」である。なんと午後2時までにオーダーすればその日のうちに届くそうで、既にジャカルタ、マニラ、シンガポール、ホーチミン、バンコクで可能とのことだ。さらにZALORAは各国で、POPステーションやセブン‒イレブンのクリック・アンド・コレクトと組み、顧客利便性の高いデリバリーの供給を目指している。

中国の医療診断と医薬品購入サービスが連携

一方、巨大市場の中国はどうか。他国以上に、短期のビジネス成果が求められてきた中国では、デジタルマーケティングと言えば、キャンペーン型の販促志向が強いものがほとんどであった。しかしながら、近年徐々に、顧客とのリレーション形成に価値が置かれるようになってきた。そして、顧客とのリレーション基盤として、あらゆるカテゴリーがオンラインプラットフォームを取り入れる、そんな動きが感じられる。

中国のネット医療診断問診サービスを運営する「春雨医生」は、昨年、国内医薬品通販の「老百姓網」とネットサービス事業に関する提携を発表した。同社のモバイルアプリ「春雨診所」を通じて、ネット上の医療診断から医薬品販売までの一貫したサービスを展開する予定とのことである。


「春雨医生」のモバイルアプリ「春雨診所」

「春雨診所」は、ネット上で一般ユーザーからの健康や病気の症状に関する質問に回答するサービスだ。そもそも、医療を求める莫大な人口に対し、医療機関や医者の数の少なさが大きな問題であった中国。そのギャップを埋める一助となる「春雨診所」は、現在、3000万人のアクティブユーザーが、登録された4万人の医師と1日当たり5万件の会話をするという巨大サービスに成長した。

「春雨診所」では、蓄積された医療情報をユーザーが自分で検索して調べる機能と、登録済みの医師に直接問い合わせる機能の2つが主なサービスになっている。ユーザーはモバイルから音声発信、またはメッセンジャー機能を使い、登録されている医師に問い合わせて、無料あるいは有料でコンサルティングを受けることができる。

今回の提携は、「医療コンサルティングを受けた後、すぐに医薬品のネット購入ができれば、診断サービスのユーザーにとってさらに使い勝手が良くなる」という構想が背景にある。現在のところ春雨は、初期診断サービスにさらに専念し、その後の治療に関するプロセスは正規の医薬品販売企業に引き渡すスキームである。「老百姓網」の総経理は、今回の事業提携について「医師がユーザーに医薬品を推奨する際に、春雨の問診アプリ上で関連する医薬品について、その一般市場価格と当社特別価格を表示させることができる。複数の製品とその価格を簡単に比較できるため、ユーザーは安心して医薬品を購入できるし、早期治療の促進にも繋がる」と語っている。

「春雨診所」は、医者とエンドユーザーの2WAYプラットフォームである。2015年に医療サービス市場が5000億米ドルを突破するとも予測される中国で、医者とエンドユーザーを結ぶ医療の流れが、薬の販売というソリューション含め、部分的ではあるがリアルからデジタルに移行していく。これまで、「春雨診所」をマーケティング手段として利用していたのは、主に保険会社だった。しかし、この流れを受けて、製薬会社、そして医療機関もデジタルプラットフォームによる顧客(医師とエンドユーザー双方向の)リレーションマーケティングの新たな戦略を模索し始めている。

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センシングアジアのマイクロコンサルティングサービスは、海外進出、海外マーケティング分野における豊富なコンサルティングと、 M&A分野での豊富なパートナー開拓実績をベースに、アジア・アセアンにおけるビジネス展開のサポートを行います。オンラインサービスの利便性(アクセス、コスト、スピード)と人的サポートを組合せています。

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