多様なアセアンか、閉じたアセアンか グローバルマネジメントの国境 パンデミックによる経済減速、国境封鎖をきっかけに、多様性を成長のパワーとしてきたアセアンが変わりつつある。グローバルマネジメントの今後を考える2回目は、弊社代表松風がシンガポール経営メンバーでもある、日系飲料企業を例に、アセアンでの企業マネジメントの“今”を取り上げる。(日本マーケティング協会 Marketing Horizon 2021年2月号への弊社代表松風の寄稿、取材原稿を元に抜粋)

パンデミックが収まる気配が見えない中、我々の適応能力が本格的に試される年となった。ビジネスとしてはまさに適者生存の様相が高まっている。Pokkaはシンガポールが海外飲料ビジネスのヘッドクォーターで、ここからマレーシアにある複数の子会社、インドネシアにあるライセンス生産拠点のマネジメント、および日本を除く世界各国への輸出を行っている。
シンガポール国内でのビジネスは、ロックダウン終了後の2020年7月以降需要が拡大しているものの、国境封鎖によるマレーシア人、中国人労働力の減少により、オペレーションが追い付いていないのが現状で何とも頭が痛い。具体的には工場や倉庫内オペレーション、ロジスティックス等の労働力が足りないが、シンガポール人はこの類の仕事には就きたがらないからである。
国(シンガポール)は“労働力を、テクノロジーでカバーしよう、もっと現場にオートメーションを”、と叫び、テクノロジー人財、デジタル人材の育成を推進しているが、現状の人材不足に対し、人財育成スピード、ビジネスの転換の実現スピードとの乖離がどうしても現実には存在し、企業としては苦しい時期でもある。
一方、マレーシアでのコロナ拡大は止まらず、ついに1月中旬から2回目のロックダウンに入り、チャイニーズニューイヤーを前にマーケットに冷や水をかける形となった。また社内の各拠点でも企業としての感染防止努力とは別に、従業員の家庭内や地元コミュニティ内感染ケースは防ぎようもなく、ピリピリとしたムードが続いている。
こうした中、パンデミックで改めて見えた一つの方向感が、中堅規模以上の企業におけるビジネス多様化の重要性であろう。これは、デジタルプラットフォーム中心にビジネス展開している企業は別として、ビジネスを展開する国、事業、拠点等の立地すべてに通じる。
例えば、国のポートフォリオ。ASEAN主要国で見ると、インドネシア、マレーシア、タイは複数のロックダウンを経験し相当パンデミックのインパクトを受けている。一方、ベトナム、シンガポールは全体感としては既に回復フェーズに入っている。特定の国に偏ってビジネスをしていると、その国のマクロ影響を直接受けてしまう。
あるいは事業のポートフォリオ。人の移動や接触を避けなければいけない今回のパンデミックは、事業がエッセンシャルか、エッセンシャルでないかが大きな分かれ目となった。社会インフラ、生活必需品/必需サービスと見なされないものは、ロックダウン中は政策的にオペレーション縮小を余儀なくされた。また、事業のオンラインでのオペレーション実現度合いによっても、潮目がわかれたと言えるだろう。
Pokkaは飲料ビジネスなのでエッセンシャルビジネスと認識されるが、それでもマレーシアでの最初のロックダウン時は工場操業、あるいは営業の認可をとるために10日近くオペレーションを止めなければならなかった。
さらにサプライチェーンの在り様。効率追求で、特定の拠点やサプライヤーに寄せていく考え方のリスクも改めて浮き彫りになった。さらにモノの移動に関わる輸送コストの上昇が止まらず、シッピングカーゴのスペースも非常にとりづらい状況が続いている。

点を繋げる経営

さて、ASEANはそもそも一つの大きな経済圏として発展を目指してきた。そのためにAEC(アセアン経済共同体)のように、人とモノの流動性を高めようというイニシアティブがあったわけだが、ここにきて国境は閉じ、ヒトの流動性は一切なくなった。
だからこそ、今までと違った“圏”の考え方でビジネスをヘッジしていくことが重要になる。ヒトが流動せず、モノの流通も影響を受ける中で、ビジネスは点の集合体として繋がっている、という捉え方である。
ASEAN内の拠点マネジメントは、国ごとの法制度や規制に従うため、一律ではない。人種、宗教、文化も異なり、経済発展段階も違う分、従業員と企業の関係も多様である。今までは、ASEAN内のオペレーション上の行き来は、日本で言うと国内出張の感覚に近く、頻繁な対面コミュニケーションが可能であった。また、何か事が起これば、すぐ飛んでいける距離間でもあり、こういったコネクティビティの利便さが異なる見解や意識の違いを埋めてきた面もある。

繋げるための共感力

移動が自由にならない今、そしてこの状況がしばらく続くであろう環境下、各国の点をつなげてグループとして運営していくためには、各拠点やその従業員に対する共感力(Empathy)が必要となる。共感力とは“相手のニーズを理解する力”といわれている。グループの経営方針や、ブランドは一つでも、それを運営するそれぞれの国の会社は、異なる従業員意識はもとより、異なる環境下にあり、それが今刻々と変わっていっている。国境封鎖により長い間家族と会えない従業員も多く、精神的にもストレスがかかっている。
そんな中、どのように共感力を高め、エンゲージメントを深めていくのか日々試行錯誤している。ZoomやTeamsなどのプラットフォームは役に立っているのか? Yes、オペレーションの面、状況理解の面では役に立っている。ただ、国籍も生活環境も違う社員と心理面でのエンゲージメントを深めるためには、やはり不足感が強く、拠点トップとの電話やWhatsApp等でのタイムリーな直接対話で何とか補おうとしている。対話するためには、各国のバックグラウンドに対するベースの理解が必要なので、刻々と変わる各国状況を日々キャッチアップし、マーケット情報や断続的に入る社員のコロナ検査陽性情報や対応策にも細かく目を通すなど、むしろ話す深度を意識的に高める努力をしている。

共感力から信頼力へ

また、ビジネス環境が変わり続ける今だからこそ、根本的な戦略の転換や、投資判断が迫られる時でもある。現場、現物、現実が不可能な状況下のグローバルマネジメントには、“現場(各国)の意思や判断を尊重し信頼できるかどうか”、これが提案される計画や数字以上に意味を持ってくる。逆に、企業やグループ全体感の中で、取捨選択やリストラクチャリングのための厳しい判断をしなければいけないことも多く、そんな局面で説明責任を果たすためには、やはり共感力というベースが必要だと考えている。
同時にグローバル展開する日本本社の共感力、信頼力も試されることとなる。経営環境が厳しくなると、そもそもリスクを取りたがらない日本企業は、ますます日本特有の価値観や判断基準に囚われがちで、動きがとれないもどかしさを昨年来感じている。ASEAN各国は現状は国によって厳しい状況が続いているが、全体として未来に対してはポジティブな意識があり、そこに逞しさがある。このような国々をマネジメントしていくためには、日本本社経営陣にも多様化が求められるところである。

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